屋根の上のヴァイオリン弾き

千秋楽 2001年6月30日 12:00開演
キャスト(主な出演者のみ)
テヴィエ 西田敏行 ツァイテル 島田歌穂 ホーデル 堀内敬子 チャヴァ 小林さやか
モーテル 岸田敏志 パーチック 吉野圭吾 イェンテ 今井和子 ラザール 上条恒彦 

久しぶりの帝国劇場である。前回ここで見たのは「エリザベート」。ウィーン原作の派手派手なミュージカルだったのだが、今回の「屋根の上のヴァイオリン弾き」はそれよりも少し地味なイメージのあるミュージカルである。
舞台は古いしきたりをかたくなに守る「アナテフカ」という地方のお話。ユダヤ人とロシア人が住んでいる。日本公演では森繁久弥さんが何年も主役をやっていたことでおなじみのミュージカルである。森繁さんから西田さんに主役が変わり、趣の違うテヴィエが演じられていると聞く。森繁テヴィエを見ることができなかったのでその違いを比べることができないのが悔やまれる。

さて、いつものように家を出ていつものように有楽町で降り、いつものように帝国劇場に向かいいつものようにチケットを見せて入場し、いつものようにプログラムを買おうとしたのだが、係員に「申し訳ございませんが、プログラムは売り切れでございます」と言われてしまった。
劇場にいって観劇する際には必ずプログラムを買っていた私はあまりのショックに呆然。千秋楽だから初めて見る人などいないと劇場の人は思ったのだろうか。いつから売り切れになってしまっていたのか聞いてみたかったのだが、その気力もなくなっていた。
悔しかったので何か変わりに買えるものを探す。売店でエリザベートのハイライト版が売られていたのでそれを購入。屋根の上のヴァイオリン弾きを見に来てなぜに「エリザベート」と突っ込みも入るだろうが、そんなのは無視だ。とにかくあまりにも悔しかったのである。

改めて劇場を見回すと今日の帝国劇場、今までに来たときと少し客層が違う気がする。おじさん客が妙に多い。
レ・ミゼラブルエリザベートのときとは明らかに違う客層であり少し違和感を感じる。

さて、開演のベルが鳴ったので自分の席についた。一階席V列。一階A席の比較的前のほうの席である。舞台を左前方に見る席で少し遠いが、前の人の頭がかぶらないので気にいっている席である。仙台で買ったオペラグラスが今回はあるので表情もよく見ることができるだろう。

舞台が暗くなり、一幕が始まる。西田敏行さんが家の前で屋根の上のヴァイオリン弾きについて語り始め、屋根の上で顔だけ白塗りのヴァイオリン弾きがオーバーなアクションで演奏を始める。そして、最初のナンバーが歌われた。

「しきたりー、しきたりっ」
ん?!なんだって?
「トラディッショーン、トラディッション」と、日本版でも言うと思い込んでいたためおかしかった。意味がわかりやすいように変えたのだろうがなぜかおかしい。「伝統〜」と歌われていたらさらに笑っただろう。

西田敏行さん演じる「テヴィエ」、映画で見たテヴィエよりもひょうきんなテヴィエだった。千秋楽だからだろうか、アドリブがどんどん入る。いや、はじめてみたのであれも台本に書いてある予定通りの台詞なのかもしれないが、ポイントポイントで笑わせてくれる。まるで釣りバカ日誌を見ているよう。
ツァイテルを演じるのはそう、レ・ミゼラブルで見事なエポニーヌを演じた島田歌穂さん。やはり歌唱力は抜群。それに衣装のせいかもしれないが、テヴィエ家の姉妹みんなかわいい。ホーデルはこれまたレ・ミゼラブルでコゼットを演じていた堀内敬子さん。コゼットのときよりもかわいかったかも。
三女チャバは小林さやかさん、小林さやか・・・どこかで聞いた名前なのだが思い出せない。あとで調べよう。
この3人が中心となって物語は進むのだが、3人ともほんとかわいかった。特に3人で掃除をしながら歌うナンバーは絶品だった。
素朴な疑問なのだが、なぜ三女からは名前の後ろに「テル」がつかないのだろう。謎だ。

このほかの登場人物も魅力的な人ばかりで、仕立て屋モーテルは岸田敏志さん。この方、ミス・サイゴンでクリスを歌った方ではなかろうか?おそらく同一人物だと思うのだが、名前が微妙に違う。歌い方はそっくりというか同じ。たぶんそうだろう。ミス・サイゴンでは精悍なアメリカ兵を演じていたのに今回は気弱な青年。そのギャップがおもしろい。
肉屋のラザールは上条恒彦さん。はっきりいって悲惨な役どころなのだが、その悲惨さをうまく演じてすごく好感が持てるラザールだった。
酒場で大騒ぎする場面、ほんと楽しかった。あんなににぎやかで楽しそうなダンス合戦。見ていて一緒に踊りたくなるほど。ダンスのラストでのロシア人ダンサーが逆立ちになって終わるのが印象に残った。
このミュージカル、悲しい場面と楽しい場面がどんどん入れ替わり、テンポ感もあるので面白い。場面転換もしっかり考えられておりまったく飽きない。次はどうなるのだろうとの期待がふくらむ。
ツァイテルの結婚式の直後の警官隊の乱入は大騒ぎがあった直後だけに悲壮感が倍増する。
巡査部長は舟戸順さん演じられていたのだが、友人の村を命令により仕方なく破壊しなければいけないという苦悩がよく伝わってきた。

一幕のラストでは有名なナンバー「日は昇りまた沈む」が歌われた。この曲、詩の内容が結婚式での親の胸中を歌ったものという感じなので子を持つ親はいろいろ思うのではないだろうか。となりのおばさんは泣いていた。
そして、その曲が歌い終わると、中途半端な感じがするが一幕はここで終了した。
最近見たミュージカルがオペラ座の怪人エリザベートという派手な演目だったので、暗い題材を扱っているこのミュージカルはすごく新鮮な感じがした。

幕間にはいつものように二階のコーヒースタンドに向かいホットコーヒーを注文。ミルクだけいれじっくりと堪能。その間、先ほど気になったおじさん集団がいたので行儀が悪いが聞き耳を立ててみた。
「つまらない」「3時半には終わる」「長いね」
がっかりだ。奥さんと一緒にきて「しかたなく」見ているのだと読み取れる会話をしているひとがほとんど。それほど難しいミュージカルではないだろうに(もちろん、深い意味を考えると非常に難しいミュージカルなのだが)意味がわからないといった話をしているひともいた。まぁ、ミュージカルの楽しみ方は人それぞれなのだがせっかく帝国劇場まで来たのだから楽しんでほしいと思うのはおせっかいだろうか。

ぽーん、ぽーんという帝国劇場の独特なチャイムが鳴ったので席に戻るとオーケストラピットがぐんぐんと上ってくる最中だった(つまりぎりぎりに入場してしまった)
二幕の最初の演奏はオーケストラピットが上がった状態で演奏されるようだ。このとき後ろから信じられない呟きが聞こえてきた。
「下で演奏していたんだぁ」
チューニングの音が聞こえ、指揮者がちらちらと見えるのにもかかわらず録音されたものでミュージカルが演じられていたと一幕の間その人は思っていたのであろう。非常にもったいない。最近生演奏でミュージカルをやるところは減っていると聞く。(実際仙台のオペラ座の怪人は録音だったのでがっかりだった)生演奏のライブ感を一幕の間感じることができなかった後ろの人、ほんと、もったいない。
オケピが下がると二幕が始まった。
関係ない話だが、そのがっかりなひと、その呟きがきっかけになったのか、劇中にしゃべるようになってしまった。すごく静かな場面、緊張感のある場面で「ごそごそ、ごしょごしょ、ごにょごにょ・・・」うるさい。

さて二幕なのだが一幕にまして人種差別の問題、宗教の問題などをテーマにどんどん暗い物語になっていった。
パーチックがシベリアに拘留され、そこにおもむこうとするホーデルとテヴィエの別れのシーン。堀内敬子さん熱演だった。
まるで大衆演劇と感じたのは私だけだろうか。旅一座が演じるおとっつぁん、むすめよーという泣かせ所の演出が普通の芝居、音楽なしの芝居だったのでそう感じてしまったのかもしれない。レ・ミゼラブルを見すぎたせいだろうか。いずれにせよ、感動的な場面だ。

映画版やブロードウェイで「Do you love Me?」と歌われるところ、「あいしてるかぃ?」だった。うーん、冒頭の「しきたり〜」もそうだが、なにかこうしっくりこない訳だ。何度も聞けばなれるのだろうがそれにしても・・・である。

屋根の上のヴァイオリン弾き、ほんとに暗いテーマを扱ったミュージカルである。ユダヤ人迫害のためアナテフカを追われるテヴィエたち。それにもかかわらず西田テヴィエはどんな場面でも私たちを笑わせてくれた。西田さんの人柄がなせる業なのだろうか?涙が流れる寸前で笑いが起きるので心地よかった。

全編通して登場するヴァイオリン弾きだが、はっきり言って私には登場している意味がよくわからなかった。何かを象徴するものらしいのだが、(冒頭にテヴィエが説明していた)物語の中で演奏しなくちゃいけない理由がよくわからない。もう少し勉強して見に行くべきだったか。

そしてそのヴァイオリン弾きがへこへこっと演奏しながら舞台から去ったところでラストとなった。

今日は千秋楽なのでテヴィエ役の西田さんのお礼の挨拶があり、何回ものカーテンコール。
さて、何回あるのかなぁと思っているとしたから舞台へ花が投げ込まれた。そう、レ・ミゼラブルでもあったあの小さな花束が今回も客席に投げられたのである。あれはレ・ミゼラブルの専売特許(笑)だと思っていたのでびっくり。そうか、あれは東宝ミュージカルの特徴なのかな。て、ことは、ミス・サイゴンの時にもあったのか・・・みたかったなぁ。

結局カーテンコールは3回くらいで終わり。たって拍手をする人もまばら、私もたって拍手したかったのだが後ろの人が見えなくなるといけないので前がたつまで待っていたら終わってしまった。
レ・ミゼラブルの時はものすごく盛り上がったのだが、屋根の上はあまり盛り上がらなかった。少し不満だったが、見終わった感じはすごく快いものだったのでいい気分で劇場をでることができた。

何度も前に見たミュージカルと比べてしまうという悪い見方をしてしまった。反省。
今まで見てきたものと正反対の、ストリートプレイに近いミュージカルだったのでそのギャップに慣れるまで時間がかかってしまったことがその原因だろう。音楽なし、セリフのみの部分に違和感を感じてしまった。普通の人は歌の部分に違和感を感じるらしいが私は逆らしい。あまのじゃくぶり大発揮だ。

見ていて笑い、泣き、楽しくなり、悲しくなり、考えさせられたこの「屋根の上のヴァイオリン弾き」非常に深くて面白いミュージカルであった。それを表現することができたか心配だが、今回のレポートはこれで終わりにする。